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2026.02.23

【第5回】数字の先にあるもの

さてこのシリーズでは旅館における
レベニューマネジメントについて書いてきた。
なぜ今この考え方が必要なのか。
需要をどう読むか。

価格をどう決めるか。
在庫と販路をどうコントロールするか。
どれも大切な話だと思う。
けれど最終回では少し違う角度から書いてみたい。
数字を見ることの先に、
何があるのかという話だ。

───

レベニューマネジメントを学ぶと、
数字が気になるようになる。
RevPAR、ADR、稼働率。
前年比、曜日別、販路別。
見るべき指標はたくさんある。
数字を見ることは大切だ。
感覚だけで経営していると、
見落としが生まれる。
数字は現実を映す鏡のようなもので、
自分たちの状態を客観的に教えてくれる。
けれど、数字を見ることが
目的になってしまうことがある。
RevPARが上がった、下がった。
稼働率が何%だった。
その数字に一喜一憂して、
数字を上げることが目標になる。
それは少し違うのではないか、
と思うことがある。

───

数字は結果だ。
何かの結果として、数字が現れる。
RevPARが上がったとして、
なぜ上がったのか。
稼働が伸びたのか、単価が上がったのか。
それはどんなお客様が来てくれた結果なのか。
数字の奥には、必ず人がいる。
予約を入れてくれた人がいる。
その人には、ここを選んだ理由がある。
期待があり、不安があり、
何かを求めてやって来る。
数字を見るということは、
本来、その人たちのことを
理解しようとすることだと思う。

───

レベニューマネジメントの技術を突き詰めると、
最適化という言葉に行き着く。
需要に合わせて価格を最適化する。
在庫配分を最適化する。
販路ごとの手数料を考慮して、
利益を最適化する。
最適化は便利な言葉だ。
無駄をなくし、効率を上げ、
成果を最大にする。
経営としては正しいアプローチだ。
けれど、旅館という商売において、
最適化だけを追い求めると、
何かが抜け落ちていく感覚がある。
お客様は、最適化された体験を
求めているわけではない。
効率よく案内され、
無駄なく食事が出てきて、
最短でチェックアウトできる。
それが良い滞在かというと、そうではない。
むしろ、無駄に見えるもの、
効率とは反対にあるものに、
旅館の価値があったりする。

───

相手を見る、ということについて考える。
レベニューマネジメントでは、
需要を読むという言い方をする。
けれど需要とは何かといえば、
結局は人の動きのことだ。
いつ、どんな人が、
何を求めて旅に出るのか。
カレンダーを見て需要を予測する。
それは正しい。
けれど、カレンダーの向こう側には、
休みを取った家族がいる。
記念日を迎えるカップルがいる。
久しぶりに会う友人同士がいる。
その人たちが、
なぜこの日を選んだのか。
なぜこの宿を選んだのか。
そこに想像を巡らせることが、
需要を読むということの本質だと思う。

───

価格を決めるときも同じだ。
25,000円という価格は、
お客様にとって何を意味するのか。
ある人にとっては、
半年に一度の贅沢かもしれない。
ある人にとっては、
毎月の楽しみかもしれない。
ある人にとっては、
一生に一度の記念かもしれない。
同じ金額でも、
その重みは人によって違う。
価格を上げることに
抵抗を感じる経営者は多い。
その抵抗感は、
お客様のことを考えているからこそ
生まれるものでもある。
けれど、価格を上げないことが
お客様のためになるとは限らない。
適正な価格をいただくことで、
サービスの質を維持できる。
スタッフに適正な給与を払える。
設備を更新し、良い状態を保てる。
価格の向こう側にいる人のことを考えると、
上げることも、上げないことも、
どちらも正解になりうる。
大切なのは、その判断に
相手への想像が含まれているかどうかだ。

───

在庫をどこに出すか、
という判断にも同じことが言える。
OTAにすべて開放するか、
自社用に確保するか。
効率だけを考えれば、
すべて開放して早く埋めるほうがいい。
けれど、毎年同じ時期に来てくれる
常連のお客様がいるとする。
その人のために一室確保しておくことは、
数字上は非効率に見える。
でも、その人にとって、
この宿が特別な場所であるならば、
その一室には数字に換算できない価値がある。
誰に泊まってほしいか。
その問いの先には、
どんな関係を築きたいか、という問いがある。

───

数字を見ることは大切だ。
レベニューマネジメントの考え方は、
旅館経営にとって必要なものだと思う。
けれど、数字を見ることは手段であって、
目的ではない。
目的は、良い宿であり続けること。
お客様に選ばれ続けること。
そして、お客様との間に、
良い関係を築いていくこと。
そのために数字を使う。
数字の先にいる人を見るために、
まず数字を見る。
順番を間違えると、
数字に振り回される経営になる。

───

このシリーズの最初に、
レベニューマネジメントの本質は
売上の最大化ではなく
価値の適正化だと書いた。
最後に付け加えるなら、
価値の適正化とは、
相手を見ることから始まるということだ。

自分たちは誰に届けているのか。
その人は何を求めているのか。
自分たちは何を届けられるのか。
その問いを持ち続けることが、
レベニューマネジメントの土台になる。
数字はその問いに答えるための道具だ。

旅館の基礎的なレベニューコントロールに関する考え方に触れてみた。シリーズでしたがまたポイント的な記事も書いていこうと思う。
それはまた次の機会に。

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