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【第5回】数字の先にあるもの

【第5回】数字の先にあるもの

さてこのシリーズでは旅館における
レベニューマネジメントについて書いてきた。
なぜ今この考え方が必要なのか。
需要をどう読むか。

価格をどう決めるか。
在庫と販路をどうコントロールするか。
どれも大切な話だと思う。
けれど最終回では少し違う角度から書いてみたい。
数字を見ることの先に、
何があるのかという話だ。

───

レベニューマネジメントを学ぶと、
数字が気になるようになる。
RevPAR、ADR、稼働率。
前年比、曜日別、販路別。
見るべき指標はたくさんある。
数字を見ることは大切だ。
感覚だけで経営していると、
見落としが生まれる。
数字は現実を映す鏡のようなもので、
自分たちの状態を客観的に教えてくれる。
けれど、数字を見ることが
目的になってしまうことがある。
RevPARが上がった、下がった。
稼働率が何%だった。
その数字に一喜一憂して、
数字を上げることが目標になる。
それは少し違うのではないか、
と思うことがある。

───

数字は結果だ。
何かの結果として、数字が現れる。
RevPARが上がったとして、
なぜ上がったのか。
稼働が伸びたのか、単価が上がったのか。
それはどんなお客様が来てくれた結果なのか。
数字の奥には、必ず人がいる。
予約を入れてくれた人がいる。
その人には、ここを選んだ理由がある。
期待があり、不安があり、
何かを求めてやって来る。
数字を見るということは、
本来、その人たちのことを
理解しようとすることだと思う。

───

レベニューマネジメントの技術を突き詰めると、
最適化という言葉に行き着く。
需要に合わせて価格を最適化する。
在庫配分を最適化する。
販路ごとの手数料を考慮して、
利益を最適化する。
最適化は便利な言葉だ。
無駄をなくし、効率を上げ、
成果を最大にする。
経営としては正しいアプローチだ。
けれど、旅館という商売において、
最適化だけを追い求めると、
何かが抜け落ちていく感覚がある。
お客様は、最適化された体験を
求めているわけではない。
効率よく案内され、
無駄なく食事が出てきて、
最短でチェックアウトできる。
それが良い滞在かというと、そうではない。
むしろ、無駄に見えるもの、
効率とは反対にあるものに、
旅館の価値があったりする。

───

相手を見る、ということについて考える。
レベニューマネジメントでは、
需要を読むという言い方をする。
けれど需要とは何かといえば、
結局は人の動きのことだ。
いつ、どんな人が、
何を求めて旅に出るのか。
カレンダーを見て需要を予測する。
それは正しい。
けれど、カレンダーの向こう側には、
休みを取った家族がいる。
記念日を迎えるカップルがいる。
久しぶりに会う友人同士がいる。
その人たちが、
なぜこの日を選んだのか。
なぜこの宿を選んだのか。
そこに想像を巡らせることが、
需要を読むということの本質だと思う。

───

価格を決めるときも同じだ。
25,000円という価格は、
お客様にとって何を意味するのか。
ある人にとっては、
半年に一度の贅沢かもしれない。
ある人にとっては、
毎月の楽しみかもしれない。
ある人にとっては、
一生に一度の記念かもしれない。
同じ金額でも、
その重みは人によって違う。
価格を上げることに
抵抗を感じる経営者は多い。
その抵抗感は、
お客様のことを考えているからこそ
生まれるものでもある。
けれど、価格を上げないことが
お客様のためになるとは限らない。
適正な価格をいただくことで、
サービスの質を維持できる。
スタッフに適正な給与を払える。
設備を更新し、良い状態を保てる。
価格の向こう側にいる人のことを考えると、
上げることも、上げないことも、
どちらも正解になりうる。
大切なのは、その判断に
相手への想像が含まれているかどうかだ。

───

在庫をどこに出すか、
という判断にも同じことが言える。
OTAにすべて開放するか、
自社用に確保するか。
効率だけを考えれば、
すべて開放して早く埋めるほうがいい。
けれど、毎年同じ時期に来てくれる
常連のお客様がいるとする。
その人のために一室確保しておくことは、
数字上は非効率に見える。
でも、その人にとって、
この宿が特別な場所であるならば、
その一室には数字に換算できない価値がある。
誰に泊まってほしいか。
その問いの先には、
どんな関係を築きたいか、という問いがある。

───

数字を見ることは大切だ。
レベニューマネジメントの考え方は、
旅館経営にとって必要なものだと思う。
けれど、数字を見ることは手段であって、
目的ではない。
目的は、良い宿であり続けること。
お客様に選ばれ続けること。
そして、お客様との間に、
良い関係を築いていくこと。
そのために数字を使う。
数字の先にいる人を見るために、
まず数字を見る。
順番を間違えると、
数字に振り回される経営になる。

───

このシリーズの最初に、
レベニューマネジメントの本質は
売上の最大化ではなく
価値の適正化だと書いた。
最後に付け加えるなら、
価値の適正化とは、
相手を見ることから始まるということだ。

自分たちは誰に届けているのか。
その人は何を求めているのか。
自分たちは何を届けられるのか。
その問いを持ち続けることが、
レベニューマネジメントの土台になる。
数字はその問いに答えるための道具だ。

旅館の基礎的なレベニューコントロールに関する考え方に触れてみた。シリーズでしたがまたポイント的な記事も書いていこうと思う。
それはまた次の機会に。

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佐藤弘明
佐藤弘明
常務取締役

旅館支援歴16年|集客・ブランド設計・運営改善まで現場密着伴走|旅館業界のリアルな現場から生まれる気づきや宿の未来を共につくるための視点を日々発信しています。

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