企画は降ってこない、だから考え方のほうを先に持っておく

先日ある宿の経営者と話していて
ふとこんなことを聞かれた。
「佐藤さんうちのスタッフに企画力をつけさせたいんですけど何をやらせたらいいですかね」
その場では「まず現場をよく見ることですかね」と返したのだけど帰りの車の中でずっとその言葉が
引っかかっていた。
企画力をつけさせたい。
この言い方には
企画力というのは後から足すもの、
どこかから持ってくるもの、
という前提が含まれている気がした。
けれど自分がこれまで見てきた現場で
良い企画を出す人というのは
特別なセンスがあるわけではなかった。
むしろ日々の営業の中で
何を見て何を拾っているかが違うだけだった。
企画力とは何なのか。
それはどうすれば身につくのか。
改めて少し順番に考えてみたいと思う。
───
宿の現場で企画という言葉が出るとき
多くの場合それは
次のプランどうするという問いと結びついている。
季節が変わるから。
連休が来るから。
稼働が落ちそうだから。
きっかけは外側にあって
その都度なにかを考える。
けれどそうやって毎回ゼロから考えている状態を
企画力があるとは言わない。
企画力とは
降ってきたものを受け止める力ではなく
何もない平地に自分で問いを立てられる
力のことだと思う。
ではそれはどうやって身につくのか。
───
もう少しさかのぼって考えてみたい。
企画を考えようとするとき
最初に手が止まる理由はだいたい決まっている。
何を考えればいいかがわからないという状態だ。
テーマが広すぎる。
情報が散らかっている。
自分の宿に合う打ち手が見えない。
この手が止まるという状態を
能力不足だと思っている人が多い気がする。
けれど実際には
企画の手前にある観察が足りていないだけで
あることがほとんどだ。
観察というのはたとえばこういうことだ。
最近予約の入り方に変化はあったか。
どの曜日から埋まり始めて
どの曜日が最後まで残るか。
料理の残し方に傾向はないか。
口コミで繰り返し触れられている言葉は何か。
チェックイン時に
お客様が最初に目を向ける場所はどこか。
こうした日常の中にある微細な変化に
気づいているかどうかが企画の起点になる。
アイデアが降ってこないのではなく
見ているものの解像度が
まだ粗いだけだということが少なくない。
───
観察ができたとして
その次に必要なのは
問いの形にするという工程だと思う。
たとえば
最近平日の稼働が落ちている
という観察があったとする。
これをそのまま企画にしようとすると
平日限定プランを作る割引を出す、
といった表面的な打ち手にしかならない。
けれどそこに問いを立ててみる。
平日に来ている人はどういう目的で来ているのか。
そもそも平日に宿を選ぶ人の行動パターンは
週末の人と同じなのか。
平日に来なくなった人は来なくなったのか、
それとも別の場所に移っただけなのか。
こうやって問いを重ねていくと
企画の方向が値引きではなく
平日に来る理由をつくる!
という別の軸に変わることがある。
企画力というのは
この問いの重ね方のことだと思う。
ひとつの現象に対して
何段階か深く掘れるかどうか。
───
もうひとつ
企画を考えていく上で
見落とされがちなことがある。
それは
自分の宿の言葉で語れているかどうかだ。
他の宿の成功事例を見て
同じことをやろうとする。
あるいはOTAの管理画面にあるテンプレートを
そのまま使う。
それ自体は悪いことではないけれど
そこに自分の宿の文脈が乗っていなければ
企画としての強度が出ない。
なぜその料理なのか。
なぜその時期なのか。
なぜその価格なのか。
ひとつひとつに
自分たちの宿だからこそ
言える理由があるかどうか。
企画とは結局
自分たちの宿を自分たちの言葉で
語り直す作業でもある。
───
では具体的にどうやって
企画を考える工程を組み立てるか。
私が現場で見てきた中で
うまく回っている宿にはひとつ共通する型がある。
それは
観察→問い→仮説→小さく試す→振り返る
というサイクルが
特別なことではなく日常として回っていることだ。
たとえばある宿では月に一度
スタッフ全員で
最近気になったことを出し合う時間を
15分だけ取っている。
企画会議ではない。ただの雑談に近い。
けれどそこから出た
最近チェックアウト後に
ロビーで長く過ごす方が増えた
という一言が
チェックアウト後に使える
ラウンジスペースという
企画につながることもある。
現場のリアルから
自然と浮かび上がってくるもののほうが
結果的に強い。
───
企画力を鍛えるという表現には
どこか筋トレのような響きがある。
けれど実際には
鍛えるというよりも
見る目を育てるに近い。
日々の営業の中で
何に気づき、
何を問い、
何を試し、
何を残すか。
その積み重ねが
いつの間にか
あの宿はいつも面白いことをやっている
という評判になっていく。
企画は特別な才能ではない。
観察と問いの習慣だ。
そしてその習慣は
今日の営業が終わったあとの10分で始められる。
自分たちの宿の何をお客様が好んでくれているか
好んでいないのか。
切口一つから大きな変化が生めます。
それが企画力というものの正体かもしれない。
