旅館にとって、リピーターとは誰のことなのか?

世の中の需給を考えると疲弊する。
そんなことを考えると決まって
このキーワードが飛び出すことが多い。
私たちのそうだがお客様からもよく聞く
キーワードだ。
リピーターが欲しい、
リピーターを大切にしたい、
という言葉を耳にする。
旅館やホテルの現場にいると、
この言葉はほとんど疑う余地のない
前提として語られているように感じる。
集客の話をしていても、
価格の話をしていても、
最後はだいたいこの言葉に戻ってくる。
ただ最近、
その言葉を使うたび聞くたびに
少し立ち止まるようになった。
旅館におけるリピーターとは?
実際にはどんな人のことを指しているのだろうか。
───
年に一度同じ季節に訪れる人。
数年に一度思い出したように戻ってくる人。
家族構成が変わっても節目で足を運ぶ人。
あるいは、
何十年も前から名前を覚えられている常連の人。
これらはすべて、
一般的にはリピーターと呼ばれる存在だと思う。
けれどその関係性の濃度や距離感は、
実はかなり違っている。
にもかかわらず、
私たちはそれらをひとつの言葉で
まとめてしまっている。
───
数字で見るとリピーターは分かりやすい。
再訪率。
利用回数。
前回からの来館間隔。
経営の話をする以上、
こうした指標を無視することはできない。
むしろきちんと見ていくべきものだと思っている。
ただ数字としてのリピーターと、
関係性としてのリピーターは、
必ずしも一致しないから難しい。
一度きりの宿泊でも、
その宿を誰かに勧めている人がいる。
しばらく来ていなくても、
折に触れて思い出している人がいる。
逆に回数は重ねているけれど、
特別な関係性が育っていないケースもある。
回数や頻度だけで切り取ると、
見えなくなるものがある。
───
リピーターを大切にするという言葉も、
少し注意が必要だと感じている。
この言葉の裏側には、
無意識の期待が乗りやすい。
毎年来てほしい。
変わらず選び続けてほしい。
他の宿には行かないでほしい。
けれど、
人の暮らしは変わる。
時間の使い方も価値観も変わる。
来なくなった理由が、
必ずしも不満とは限らない。
単に人生のフェーズが変わっただけ、
ということも少なくない。
それでも、
来なくなった=失ったと捉えてしまうと、
どこかで無理が生まれる。
───
リピーターとは、
必ず何度も来る人ではないのかもしれない。
必要なときに思い出してもらえる人。
戻る場所として選択肢の中に残っている存在。
そう考えると、
大切にするという行為も、
囲い込むこととは違って見えてくる。
特別扱いをすることでもなく、
過剰な期待を背負わせることでもない。
ただいつ戻ってきても違和感がない状態を保つ。
そのための営みを続ける。
───
リピーターが欲しい、
という言葉の奥には、
この宿は続いていくのだろうか
という不安が潜んでいることも多い。
だからこそ分かりやすい数字に
寄りかかりたくなるし便利な言葉を
使いたくもなる。
けれどリピーターという存在を、
もう少し丁寧に見直してみると、
宿が本当に整えるべきものも、
少し違って見えてくる。
誰にどんな距離感で、
どんな関係性を残していきたいのか。
その問いを持ち続けること自体が、
結果としてリピーターと呼ばれる人たちと
一緒に育っていくことなのかもしれない。

