価格を上げても稼働は落ちないのか?

行動経済学から考える宿の値決め戦略
宿泊業を支援していると、
必ず耳し考えるべき問いがある。
もし価格を上げても稼働が落ちないなら
いくらでも上げればいいのではないか?
シンプルな問いだが、
もちろん答えはそう単純ではない。
なぜなら価格には人間の心理と市場の参照点が
深く関わっており、
それを無視した値決めはリスクを孕むからだ。
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1. 小規模温泉宿のケース
仮に客室7室の温泉宿を想定してみよう。
・平均単価:18,000円
・稼働率:58%前後(週一で定休あり)
・年間売上:約5,000万円
・OTA経由:全体の9割
口コミにはこの価格でこの内容は
驚きという声が並び、
価格以上の満足度は得られている。
では単価を30,000円弱まで
引き上げたらどうなるのか。
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2. 価格を上げても売れる条件
(行動経済学の視点)
① 参照価格効果
同じエリアで2食付き18,000円が
基準になっているなら、
2万円を超える価格には納得の理由が求められる。
② 損失回避性
高価格帯ほどより外したくないという
心理が働く。
口コミやレビューの信頼性が決定打になる。
③ フレーミング効果
3万円の宿として伝えるよりも、関アジを味わい砂湯に浸かる物語と表現することで、
価格ではなく体験価値が先行する。
④ 希少性の効果
砂湯×料理×接客の3点セットのように、
希少性がはっきりすれば、
高価格でも受け入れられる余地は大きい。
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3. 成功と失敗の分かれ道
◎ 成功している宿の共通点
①世界観が写真・文章・接客まで統一されている
②限定感や物語性があるプランを用意している
③高価格プランをいきなり主力にせず、「選択肢」として段階的に出している
▫️失敗しやすい宿の特徴
①OTAのページなど表現が価格相応に見えないまま値上げした
②常連客に受け皿を用意せず
突然価格改定だけをした
③値上げ後に予約が減り、
元に戻しても「高い宿」という印象だけが
残ってしまった
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4. 限界と突破口
価格を上げるにも限界点がある。
それを突破するには次のような工夫が必要だ。
①OTA上では相場帯を意識しつつ、特別プランで高単価をテストする
②写真やコピーを現状価格の雰囲気から目指す価値観に刷新する
③自社予約比率を高め価格の主導権を取り戻す
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5. 価格はいくらでも上げられるわけではない
価格をいくらでも上げられるわけではない
理由は明確だ。
①地域やOTAの中で「相場」が存在する
②期待値とのギャップはすぐに悪い口コミにつながる
③この価格でこの内容」というコスパ支持層を失う恐れがある
ではどうするか。
① 通常価格は現状維持(18,000〜20,000円)
② 特別プランを
24,000〜29,000円で試験的に販売
※売り上げの内訳のシェアを変えて単価アップ
③ 価格の理由を料理・温泉・接客の世界観で語る
④ OTAでは維持、
自社では特典やストーリーで差別化
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価格は単なる数字ではなく、
お客様が期待する体験と宿が表現する価値との
釣り合いで決まる。
上げられるかどうかは稼働率の計算ではなく、
伝え方と納得感にかかっているのだ。

