価格競争と宿の価値。OTA時代に考えること

近隣の旅館が毎週のように
OTAでキャンペーンを打ち出す。
1,000円引き、2,000円引き、
週末限定セール、果てはクーポン利用等……。
そんな中で金額設定に悩まされている
旅館は少なくない。
隣が安くしているからうちも下げなければ
そう思いながら気づけば、
どんどん価格の底を掘っている。
確かにOTAの中では比較が一瞬でできる。
画面に並んだとき、
価格の安い順に並び替えられたとき、
宿はどうしても数字で勝負せざるをえなくなる。
これがOTAの持つ強烈なメリットであり、
同時に宿の個性を薄めてしまう
大きなデメリットでもあるかと思う。
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市場価格と自社の価値は同じではない
忘れてはいけないのは、近隣の価格と自社の価値は必ずしも一致しないということだ。
隣が安くても自分たちが選ばれればいい。
そう言えるだけの理由やストーリーを宿が持っているかどうか。
安さではなくそうまでしても行きたい場所として選ばれること。
これが理想だとわかっている。
分かっているながら、
現実はそう簡単ではない。
けれど、
この視点を手放してしまえば、
価格競争の波に飲み込まれるしかなくなる。
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OTAがもたらす二面性
OTAは強力な集客装置だ。
これは私たちも自社集客支援を行なっている
立場でありながらも入口の扉としてはやはり
うまく利用せざるを得ないのが現実だ。
認知が少ない小さな宿でも、
全国から、海外から予約が入る時代だ。
露出を高め、
稼働を安定させるために、
これほど便利な仕組みはない。
その一方で、
すべての宿が同じ枠組みで表示されることの
リスクもある。
並び替えれば
価格順や
評価順で瞬時に比較される。
写真も説明文も、
形式は画一的で違いが伝わりにくい。
本来は一つひとつ違うはずの宿が、
均一化の中で見分けにくくなってしまう。
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改めて問いたいこと
だからこそ問いたい。
自社が選ばれる理由を、
きちんと作れているだろうか。
そしてそれをOTAの中でも、
あるいは自社サイトや発信を通じて、
表現できているだろうか。
価格を下げれば一時的には動く。
けれどそれが積み重なれば安さでしか選ばれない宿になってしまう。
この宿に泊まりたい
少しくらい高くても、ここに行きたい
そう思ってもらえるだけの価値を、
どこまで見せられているか。
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理想と現実のはざまで
もちろん、理想を掲げても現実は厳しい。
平日稼働をどう埋めるか。
急なキャンセルをどう補うか。
OTAのキャンペーンが便利に思える瞬間もある。
それでも忘れてはいけないのは、
安さだけに頼ることの危うさだ。
価格の下に隠れてしまう宿の物語を、
どうすれば見せられるか。
画一化された画面の向こうで、
選ばれる理由をどう表現するか。
これはいまの時代の宿にとって
避けて通れない問いだと思う。
宿の価値は、数字ではなく体験に宿るもの。
価格競争に巻き込まれたとしても、
最後にお客様を動かすのはここに行きたいという気持ちだ。
この感情を動かす取り組みこそが
お客様も気持ちを生み出せる宿でになれるのでは
ないだろうか。
すべてはそこにかかっている。

