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宿の本物と偽物。問いを立て続けるということ

宿の本物と偽物。問いを立て続けるということ

本物と偽物。
この二つの言葉は、
古くからあらゆる分野で使われてきた。

芸術や文学の世界はもちろん、
ビジネスや人間関係にまで及ぶ。

けれど近ごろは、
この二つを区別する力が、
社会の中から薄れつつあるのではないかと
感じることがある。
SNSで目にする派手な宣伝や、
短期間だけ話題になる消費。
一見すると華やかだが、
それは「本物」なのだろうか?
いやそもそも私たちは
本物と偽物を見極める目を、
どれだけ持ち合わせているのだろうか。

今回はこの問いを、
宿という営みに当てはめてみたいと思う。

世相の変化と「偽物」の増殖

今の世の中は情報の流通速度が圧倒的に速い。
昨日話題になったものが、
今日にはもう忘れられている。
その中で本物を探し当てることは難しく、
つい派手さやわかりやすさに飛びついてしまう。

例えば飲食業界では、
SNS映えする盛り付けや動画が一気に拡散する。
一瞬の集客効果は大きいが、
半年後にはほとんど記憶にも残らない。
これと似たことが宿泊業にも起こっている。

「映える客室」
「インフルエンサー限定プラン」
「豪華な名称の会席料理」

それら自体を毛頭否定するわけではない。
けれどその背景にある
理念や営みが伴わなければ、
ただの見せかけで終わってしまう。
まさに偽物がはびこる温床になりやすいのだ。


宿の営みに宿る「本物」

一方で本物と呼べる宿は、
表面ではなく営みに根ざしている。

古びた建物でも、
隅々まで清潔に整えられていること。
夕食に出される料理が、
地元で昔から親しまれてきた食材であることや
スタッフの言葉や所作に、
自然な心配りが宿っていること。

そこには広告や演出を超えた
日常の積み重ねがある。
不便や偏りすらもその宿らしさとして
大切にしている。

例えば夕食は一斉に始まる、部屋にテレビは置かないなど一見すると不親切に見えるルール。
けれどそれを貫くことで、
お客様はそこでしか得られない体験を味わうことができる。
宿の側がぶれずに差し出しているものにこそ、
本物が宿るのだと思う。


お客様の目が鈍るとき

しかし問題というのかことの本質は、
そうした本物を受け取れるお客様の目が、
社会全体で鈍ってきていることだ。

「安いから」
「派手だから」
「流行っているから」

それが選ばれる理由になってしまうと、
宿はどうしても「偽物的」な方向へ流される。
誰にでもウケるように調整し、
過剰な装飾やキャンペーンで一瞬の注目を狙う。
その結果本来の営みや哲学は
隅に追いやられてしまう。

だからこそ宿の側から私たちはこれを本物と信じていますと差し出し続けることが重要になる。
見極める目が弱まっている時代だからこそ、
本物を提示する側にも責任があるのだ。


本物を測る軸はどこにあるか

では、
宿における「本物」と「偽物」を分ける軸は何か。
あえていくつかの視点から整理してみる。

① 価格

高いから本物、
安いから偽物という単純な話ではない。
適正な価格に対して、
どれだけ誠実に
価値を提供しているかが問われる。
安さを売りにしていても、
体験の質が高ければ本物だし、
逆に高額で中身が薄ければ偽物になる。

② 施設

新しい設備や豪華なデザインは魅力的だ。
けれど、
それが維持管理されていなければ形骸化する。
建物の新しさよりも手が入っているかどうかが
本物か偽物かを分ける。

③ 人

接遇がマニュアル通りで心がこもっていなければ偽物感はすぐに伝わる。
一方で言葉少なでも誠実な気持ちが伝われば、
それは本物になる。
結局「人」が最も大きな軸になる。

④ 営み

どれだけ時間をかけて積み重ねてきたか。
理念や哲学が一貫しているか。
これこそが本物の最大の判断軸だろう。

問うことが本物を育てる

ここまで書いてきても、宿の本物とは何かという答えは一つに定められない。
ただ一つ言えるのは、
問いを立て続けることこそが
本物を育てるということだ。

「この営みは本物だろうか」
「この表現は偽物に寄りかかっていないだろうか」

問いを繰り返し立ち止まって確かめる。
その姿勢こそが、
宿の価値を時間とともに深めていく。

停滞期にこそ問われるもの

観光需要が鈍る時期外部環境が厳しいとき。
そういう停滞期こそ宿の本物と偽物の違いが露わになる。

短期的な割引や派手な宣伝に頼ると、
宿の芯は失われやすい。
一方で静かに営みを磨き続けている宿は、
波が戻ったときに一気に力を発揮する。

停滞期は何もできない時間ではない。
むしろ問いを立てる時間だ。
未来に選ばれる宿になるために、
今こそ「本物とは何か」を見直す必要がある。

本物と偽物のあいだで

結局のところ、
本物と偽物は白黒では分けられない。
人によっても、
時代によっても、その基準は変わる。

ただ確かなのは、「問いを立て続けている宿」だけが本物へと近づいていくということだ。
答えは常に揺れる。
けれど、
その揺れの中で自分たちなりの
芯を持ち続けること。
それが宿における本物の条件だと思う。

そしてそうした宿を選び、
育てるのもまたお客様の目である。
だからこそ、世の中に本物を見極める目がなくなってしまうことは大きな危機なのだ。

さいごに

「本物」と「偽物」は単なるラベルではない。
それは宿がどういう営みを続け、
何を信じて差し出しているかに直結している。

世の中に偽物があふれ、
本物を見極める目が鈍っている時代だからこそ、問いを立て続けることに意味がある。
「宿の本物とは何か」
その問いを胸に刻みながら、
日々の営みを積み重ねる。

それこそが、
宿が未来に選ばれ続けるための
唯一の道なのだと思う。

今回は少し気難しい題材を取り上げてみた。
これも宿に携わっている数が増えれば増えるほど
また地域に新しい宿がどんどん増えて
選ばれるにはどうすべきかと考えてみても
なかなか答えは出ないものです。

なので集客においても切り口を少し変えて
頭の体操をしてみるのもいいかもしれません。
今日はそんな題材でした。

佐藤弘明
佐藤弘明
常務取締役

旅館支援歴16年|集客・ブランド設計・運営改善まで現場密着伴走|旅館業界のリアルな現場から生まれる気づきや宿の未来を共につくるための視点を日々発信しています。

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