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海外スタッフを迎える難しさと、体制づくりの現実

海外スタッフを迎える難しさと、体制づくりの現実

国内の旅館でも、海外からのスタッフを受け入れる例が増えてきました。
背景の一つには慢性的な人手不足があります。
しかし、それは単に人を埋めることではなく宿にとって新しい視点を迎え入れるという意味も持っています。

とはいえ、実際に現場で取り組もうとすると難しさは山ほどある。
制度、契約、教育、生活支援、文化摩擦……。
挙げればきりがありません。

海外スタッフの受け入れは「採用の延長」ではなく、宿全体の仕組みづくりそのものだといえるでしょう。

現場が直面する大変さ

当たり前のことですが、
雇用を決めてもすぐに現場に立てるわけではありません。
在留資格の手続きは複雑で時間がかかり、
現場が望むスピード感とは大きなギャップがあります。

教育面でも、旅館はフロントから清掃までマルチタスクが前提です。
「一度に全部やってほしい」という現場の焦りと、「すぐにはできない」というスタッフの実情がぶつかり、教える側も疲弊する。
受け入れたはずなのに、かえって現場が混乱してしまうケースもあります。

生活基盤の整備も同じです。
住居、銀行口座、行政手続き……
一つひとつに誰かが付き添わなければ進まない。
仕事はできるのに、生活が不安定で続かない。
そんな現実に直面することも少なくありません。

だからこそ、海外スタッフの受け入れは制度・教育・生活支援を含めた全体の体制づくりと切り離せないのです。


受け入れの5つのステップ

① 雇用の枠組みを理解する

在留資格によって従事できる業務の範囲は大きく変わります。

1. 技能実習(宿泊分野)
できること:客室清掃、ベッドメイキング、館内清掃、リネン管理、配膳補助、調理補助
できないこと:フロント業務、顧客対応、会計、マネジメント
→「技能を学ぶ」目的なので、単純・定型作業が中心。責任ある接客業務は不可。

2. 特定技能(宿泊業)
できること:フロント業務、接客、館内案内、レストランでの接客、清掃、調理補助、イベント補助
できないこと:管理職、高度な企画立案、通訳ガイド業
→「即戦力」として現場に立てる資格。日本語力(N4相当以上)と技能試験の合格が必要。

3. 高度専門職
できること:マネジメント(支配人補佐など)、経営企画、ブランディング、専門調理、経理・人材育成
できないこと:単純作業だけを目的に雇用すること
→「知識・専門性を活かす」枠。現場作業を主とした単純労働は制度趣旨から外れる。

どの枠組みを選ぶかで働ける範囲は大きく変わります。
間違えれば「採用できたのに現場に入れない」という事態になりかねません。

② 契約と待遇の透明性

海外スタッフは契約条件に敏感です。
給与、残業、休日、宿舎の有無。
日本人なら暗黙の了解で済む部分も、明確に伝える必要があります。
細かすぎるくらいに説明することが、
むしろ信頼関係を築く出発点になります。

③ 教育とマルチタスクの壁

旅館はマルチタスクが前提ですが、いきなり全部を任せるのは危険です。
一つの業務に集中→段階的にローテーションへ。
教育に計画性を持たせることが、本人と現場の双方を守ります。

④ 生活基盤のサポート

働く前に住むことが安定していなければ、定着は難しい。
宿舎、銀行口座、携帯電話、行政手続き。
宿だけで抱え込まず、行政や地域団体と連携して進めることが大切です。

⑤ 日本人スタッフとの協働

文化や習慣の違いから摩擦は必ず生じます。
違って当然という前提を持ち、小さな成功体験を積み重ねる。
助けてもらっているという実感が双方の関係を前向きに変えていきます。


海外スタッフの受け入れは、
人手不足の解消策であると同時に、宿の体制を問い直す機会でもあります。
制度理解から生活支援まで、想像以上に大変で現場の負担も大きい。

けれどその準備を経てはじめて人を埋めるのではなく宿の力を広げることにつながる。
受け入れはゴールではなく、新しい宿づくりの始まりなのだと思います。

佐藤弘明
佐藤弘明
常務取締役

旅館支援歴16年|集客・ブランド設計・運営改善まで現場密着伴走|旅館業界のリアルな現場から生まれる気づきや宿の未来を共につくるための視点を日々発信しています。

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