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インバウンド回復の正体と、宿が向き合うべきこれから

インバウンド回復の正体と、宿が向き合うべきこれから

昨今インバウンド需要の動きが鈍ってきている。
振り返ってみれば、
コロナ前と比べて宿そのものに大きな変化があったかというと、
そうではなかったように思う。

それでも、海外からのお客様は少しずつ増えていった。
平日の稼働を支えてくれる存在として、
日本でも広く受け入れられるようになり、
そしてコロナ禍を経て人の動きが一気に解き放たれたとき、
インバウンド需要も勢いを増した。

非常事態宣言や渡航制限といった足かせが解けた結果、
市場全体が活発化したのは間違いない。
だがそれは、
宿単体の努力や変化が直接の理由ではなく、
外部環境の変化によって押し上げられた波だったように感じている。

変わらなかったものと、変わったもの

コロナ前と後で宿のハードやサービスに大きな変化があったかといえば、
そうではない。
派手な改装や新しい取り組みが一斉に起こったわけでもない。

一方で大きく変わったものもある。
それは「物価高」と「宿泊単価の上昇」だ。

世界的なインフレと円安の影響で宿泊料金は確実に上がった。
国内のお客様にとっては値上がりと映るが、
海外からの旅行者にとっては依然として割安感がある。
人数の回復に加え、
単価の上昇が売上を押し上げる要因となりコロナ前とは違う景色を
つくり出している。


数字が示すインバウンド回復

2019年訪日客数は3,188万人。
コロナで急減したものの、
2023年には2,507万人まで戻り、
2024年は11月までの累計で3,338万人に達した。
11月単月では318万人超と過去最高を記録している。

数字だけを見れば「完全回復」と言える状況だ。
しかしそれはあくまでマクロな視点での話。
宿単体で見れば「日本全体が選ばれた」ことの恩恵を受けただけで、
宿自体が新たに選ばれる理由を手にしたわけではないのではないか。


過去・現在・未来を並べて考える

過去を振り返れば、
平日の稼働を支えてくれたのは確かに海外からのお客様だった。
その存在に頼っていた部分は少なくない。

現在を見ると価格の上昇も相まって、
宿を選ぶ理由が「割安感」なのか「体験そのもの」なのかがよりシビアに
問われている。
価格だけに頼るのではなく、
口コミや記憶に残る体験が選ばれる理由になっているだろうか。

未来を考えると円高や世界経済の減速が起これば、
訪日需要はまた鈍るかもしれない。
そのときに、どのように稼働を支え、売上を守るのか。
国内客に向けてどんなメッセージを発信しリピーターをどう育てるのか。


宿が持つべき視点

インバウンドの波は確かに大きい。
だがそれに流されるだけでは次の環境変化にまた振り回されてしまう。

宿として持つべき視点は、
外の波をどう読むかと同時に、
自分の宿がその波の中でどう選ばれるかということだ。

価格、立地、条件だけでなく、
「ここに来ると安心できる」
「また帰ってきたい」
そう思ってもらえる体験や価値を磨くこと。

外の環境に支えられるのではなく
自分の宿そのものが選ばれる存在になること。
その積み重ねがインバウンドの動きに一喜一憂しない強さにつながる。

気づきとして

インバウンドの回復は宿を救う魔法ではないという現実。
数字は外からやってくる。
けれどその背景を読み、自分の宿にとっての意味をどう見つけるか。
そこにこそ経営の観点や視点がある。

物価高と単価上昇という現実をどう受け止めるか。
過去・現在・未来を並べて見たとき、自分たちの立ち位置をどう描くか。

環境に揺らされるのではなく、波の中で選ばれる宿へ。
それがこの先に考えていくべき本当の課題なのだと思う

佐藤弘明
佐藤弘明
常務取締役

旅館支援歴16年|集客・ブランド設計・運営改善まで現場密着伴走|旅館業界のリアルな現場から生まれる気づきや宿の未来を共につくるための視点を日々発信しています。

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