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なぜ旅に出るのか?なぜ同じ宿に戻るのか

なぜ旅に出るのか?なぜ同じ宿に戻るのか

観光業をふと見ている時に思い返すこと
人はなぜ旅に出るのだろうか?
そしてなぜ何度も
同じ宿に泊まりたくなるのだろうか。

この問いは、旅館やホテルの経営にとって決して小さくない。
数字を追うだけでは答えは見つからない。
けれど調査データを眺めていくとそこに人の欲求のかたちが浮かび上がってくる。

旅に出る理由

調査によれば国内旅行の目的のトップは「旅行先のグルメ」(39.7%)、次いで「温泉・サウナ」(35.0%)だった 。
ご当地ならではの料理を味わい湯につかる。
昔から変わらない王道の動機が、
今もなお旅の中心にある。

ただし世代ごとに若干動機は違う。
10〜20代はテーマパークやスポーツなど、
非日常の体験を目的にする傾向が強い 。
一方で30代以上になると「宿でゆっくり」「温泉で癒されたい」といった落ち着き志向が増えていく 。

つまり若い世代は「刺激と体験」を、
年齢を重ねるほど「安心と癒し」を
旅に求めているのだ。


どれくらい旅に出ているのか

全体では、
1年間に1回以上宿泊旅行に行く人は約6割。

特に20代女性では8割以上が年に一度は
旅に出ている 。
回数で見れば18〜29歳男性や60代男性は年間平均3回以上と若者とシニアが突出して多い 。
一方で40〜50代は年1回未満の層も多く、
仕事や家庭に時間を取られがちな年代の現実を映している。

旅行頻度は世代のライフステージそのものを表しているとも言えるだろう。


宿に戻る人、戻らない人。

調査では20歳以上の約7割が「同じ宿に再宿泊した経験がある」と答えている 。
しかし実際の宿泊施設全体でのリピーター比率は10〜30%程度にとどまるのが現実だ 。

つまり多くの旅行者は「いつも違う宿」を選んでおり宿にとってリピーターは貴重な存在だということになる。

年代で見ると年齢が上がるほど
リピート率は高まる傾向にある 。
また男性の方が女性よりもリピート傾向が強く、特に30代ではその差が顕著だ 。
女性は旅行意欲自体は高いが、
新しい場所を試す傾向が強く、
同じ宿に通う割合は相対的に低い。

宿の経営にとって、
リピーター獲得の難しさと価値の
大きさがここに表れている。


何がリピートを生むのか

初めて宿を選ぶときに重視されるのは料金や立地だがリピート理由になるのは別の要素だという調査がある。
サービス(接客)
清潔感
館内設備
部屋からの眺望など
こうした項目の重要度が再訪時には大幅に上昇していた 。

特に「サービス」は全体で14ポイント増え、
最も大きく伸びた 。
料金や条件を超えてまた来たいと思わせるのは、やはり人や体験に紐づいた記憶なのだ。

他の分野と比べてみる

宿泊と他の業界を比べると、
リピーターの構造の違いが際立つ。

外食では約8割が「行ったことのある店」を選んでおりリピート利用が圧倒的に多い 。
高級アパレルではブランドへの忠誠心が購買を支えリピート率が50%を超えることもある 。
一方でエステサロンでは半年以内リピート率が約20%と低く高単価サービスほど定着が難しい現実もある 。

旅館・ホテルはこのエステと似て、
非日常の体験という性質上、
一度きりで終わることも多い。
しかし同時にアパレルや外食のように「また来たい」と思わせる力を持ち得る。

気づきとして

人は旅に出る。
理由はグルメや温泉体験や癒し。
そしてまた同じ宿に戻るのは、
価格や条件ではなく、
そこにしかない体験や
人との関わりがあるからだ。

旅は新しい土地を求める営みでもある。
だからこそリピーターは多数派にはならない。
けれど一度また帰りたいと思える宿に出会ったときその人の旅の記憶に宿は深く刻まれる。

答えは数字の中だけにはない。
けれどその数字の裏にある声に耳を澄ませれば、なぜ旅をするのか?
なぜまた戻るのか?という問いに、
小さな手がかりが見えてくるのだと思う。

佐藤弘明
佐藤弘明
常務取締役

旅館支援歴16年|集客・ブランド設計・運営改善まで現場密着伴走|旅館業界のリアルな現場から生まれる気づきや宿の未来を共につくるための視点を日々発信しています。

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