インバウンドという記号をもう一度読み解く。

日本はいま「インバウンド」という記号に多くの期待を重ねている。
2030年までに
訪日外国人旅行者数を6,000万人に。
訪日消費額は15兆円へ。
国を挙げて掲げたこの目標は宿泊業や観光産業に従事する私たちにとっても、
希望の星のように語られている。
だがその一方でふと思う。
私たちはいま、
数字という記号にばかり
目を奪われていないか?
なぜ来るのか。どこに来るのか。
観光庁の発表によれば、
2023年の訪日外国人は2,513万人(コロナ前の2019年比79.7%)訪日消費額は5.3兆円と過去最高を記録している。
間違いなく回復は進んでいる。
だが目標に対してはまだ半分の水準。
これからの道筋の中で世界には日本よりも
手軽な国も、
エンタメに富んだ国も、
歴史ある国も無数にある。
観光地の整備が進み、
LCCの就航数が増え、
円安の追い風が吹いたところで、
日本のどこへ来るかではなく、
「そもそもなぜ日本を選ぶのか」という問いに、
私たちはもう一段深く向き合う必要がある。
かつては、
国内で京都と金沢が競い合い、
箱根と伊豆が比較された。
けれどこれからは日本と世界のどこかが
本当の競合になる。
インバウンドという記号の裏側
人が旅をする理由はもはや消費だけではない。
その国に漂う空気を感じ、
人と交わした言葉を記憶に残し、
その土地にしかない風景を胸に焼き付けたい。
そうした理由の延長線上にしか、
旅は存在しない。
だからこそ今こう問い直したい。
日本の中でどこにストーリーを持てているのか?
数字や補助金の先にあるこの問いに、
向き合わなければならない。
国が進める6000万人の中身とは?
この目標達成のために観光庁が掲げているのが次の6分野、
① 地方誘客と周遊の推進
② 高付加価値旅行の促進
③ 受入環境整備(多言語対応、交通手段など)
④ デジタル活用・DXの推進
⑤ 観光産業の構造改革
⑥ 観光による地方創生の加速
つまり量(6000万人)と質(15兆円)の両立がテーマとなっている。
特に地方誘客に関しては訪日外国人の地方訪問率を60%以上へとも掲げられており、
東京・大阪・京都といった黄金ルート以外の選択肢をいかに増やすかが鍵になる。
「オールジャパン」の時代へ
日本全体がひとつの大きな宿のように機能する。
そんな設計が必要なフェーズにいま私たちは入っている。
それは中央主導の一元化ではない。
各地域が自分たちの物語を持ちつつも、
他の地域と連動するという考え方だ。
①宿泊体験が次の目的地の関心につながる
②旅の導線上に心が動く施策を仕込む
③自分たちの強みを明確にし他地域と補完し合う
こうした連携が点ではなく面としての日本を形成していく。
数字は目的ではなく証明である
「6000万人」「15兆円」という数字を否定するつもりはまったくない。
数字は見えない価値の証明として重要だ。
だがそのためには、
前提としてなぜ来るのか?
何がそこにあるのか?
の設計が必要になる。
それは文化であり、
人であり、
営みであり、
空気感である。
そして何よりそれを伝える言葉と手段を持てるかどうかが今後の観光の鍵を握っていると私は信じている。

