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「お客様との約束」とは何か?表示と信頼をめぐって

「お客様との約束」とは何か?表示と信頼をめぐって

2025年5月公正取引委員会が東京都内の主要ホテル15社に対して警告を出した。
内容はというと
各ホテルが
毎月の稼働率や客室単価、
予約状況といった営業情報を定期的に共有していたというもの。
情報の交換は、
将来的な価格設定の参考となる可能性があり、
独占禁止法上の「不当な取引制限」に該当するおそれがあるとされた。

対象となったのは、
帝国ホテル、
ホテルオークラ東京、
ホテルニューオータニなど、
いずれも名の知れた宿泊施設を運営する企業。
これらの事業者は、
公取委の指摘を受け、
当該行為をすでに中止しており、
今回の措置は排除命令ではなく「警告」にとどまっている。
併せて業界団体にも、
再発防止のための周知が求められた。

この出来事が注目を集めたのは、
やはり「高級ホテル」という安心感と、
情報のやりとりが
直接消費者の目には触れない構造にある。
派手な偽装や不正表示ではないけれども、
競争の前提となるはずの情報が共有されていたという事実には、
一定の重みがあるという判断だろう。

今回の件を踏まえて少し今までの事例も
見てみようと思う。
宿泊業界において、「表示」をめぐる問題は
これまでにもたびたび起きている。
たとえば「天然あわび使用」とうたいながら実際は外国産だった事例や、
温泉表示が実態と異なっていたケースなど。
2010年代には全国のホテルで食材表示をめぐる問題が相次ぎ、
消費者庁からの措置命令が続いた。

露天風呂に温泉が使われていなかった、
炭酸泉ではなかった、
地元産をうたっていたが
仕入れは別の地域だった。
いずれも誇張された表示や事実と異なる文言が販売促進のために使われていた。
こうした事例の多くは、
景品表示法に基づき「優良誤認」と判断され、
再発防止や訂正の義務が課された。

***

今回の警告に共通するのは「本来あるべき姿」と「表に出る情報」とのあいだに、
距離があるということだ。
表示とは消費者がサービスを選ぶうえでの判断材料でありその信頼性が揺らげば、
選択そのものに誤りが生じる可能性がある。

宿泊施設にとって、
施設そのもの以上に問われるのは、
提供される情報の正確さである。

温泉、朝食、客室、価格、特典。

どれも細かな違いが判断を左右し、
期待をつくる。
そうした小さな要素の積み重ねが、
結果的に宿の評価や再訪につながることを考えれば表示の透明性は単なる法令遵守に
とどまらないのではないだろうか。

***

今回は警告であり、
罰則が科されたわけではない。
だが同時にそれは「問題がない」ということを
意味するものでもない。
多くの宿泊事業者が、
過去の事例を振り返りながらどこまでを正確に、どこまでを適切に伝えるべきかを、
改めて問い直す機会となるだろう。

表示は事実を伝える手段であり、
宿泊体験の一部でもある。
「お客様との約束」とは何か。
その問いにあらためて正面から向き合う必要がある。私たちも情報を発信する立場としてそこを蔑ろにしてはいけないということを改めて気付かされた警告だった。

佐藤弘明
佐藤弘明
常務取締役

旅館支援歴16年|集客・ブランド設計・運営改善まで現場密着伴走|旅館業界のリアルな現場から生まれる気づきや宿の未来を共につくるための視点を日々発信しています。

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