同じ通りを歩いていてもなぜか足が止まる店と
そのまま通り過ぎる店がある。
立派だから入るわけでもないし新しいから気になるとも限らない。
少しだけ自分に関係がありそうだと思える。
最初のきっかけは案外そのくらいの
小さな引っかかりなのだと思う。
求人も少し似ている。
募集は出している。
見られてもいる。
それでもその先が動かないことがある。
その時に起きているのは情報が足りないことより、
読む人にとって自分の話に見えていないことなのかもしれない。
旅館やホテルの採用ではこの感覚がかなり大きい。
正社員として働きたい人もいれば
まずは暮らしに無理なく入る仕事を探している人もいる。
県外から環境ごと変えたい人もいれば、
未経験で一歩目を踏み出そうとしている人もいる。
すでに現場を知っていてその先の役割を探している人もいる。
見ているものが違うのだから入口の言葉も本当は同じでは足りない。
今回はそのことをもう少し丁寧に考えてみたい。
間口を広げるほど、言葉が薄くなることがある
採用の原稿を書こうとすると
できるだけ多くの人に届くように色々なことを入れたくなる。
未経験歓迎。
経験者優遇。
正社員もパートも募集。
地元の方も県外の方も歓迎。
接客から裏方まで幅広く活躍。
たしかに入口は広く見える。
ただその広さがそのまま届きやすさになるとは限らない。
読む側が見ているのは募集しているという事実だけではないからだ。
この働き方が自分の暮らしの中に収まりそうか。
無理なく続けられそうか。
ここで働く姿を少しでも思い浮かべられるか。
そうした感覚が持てないと原稿は読まれても
その先の行動にはつながりにくい。
全部を拾おうとするほど言葉はならされていく。
そしてならされた言葉は、
誰にでも向いているようでいて誰の心にも深く残らない。
読む人が違えば最初に気になる場所も
変わってくる
同じ宿の募集でも誰が読むかによって引っかかる場所はかなり違う。
正社員として働くことを考える人は目の前の条件だけでなく、
その先の時間まで見ていることが多い。
ここで働き続けた時に生活がどう安定していくか。
経験が積み上がるか。
役割が少しずつ広がっていくか。
募集の有無より
ここに自分の数年をかけれるかどうかのほうが大きいのだと思う。
それに対してパートを探している人が見ているのは、
もっと日々の暮らしに近い。
立派な条件かどうかより毎日の中に無理なく入る仕事かどうか。
時間帯や通いやすさ家事や子育てと並べた時の負担感。
続けられそうだと思えるかどうかは案外そのあたりで決まることが多い。
県外から応募を考える人にとって気になるのは仕事内容だけではない。
その土地でどう暮らすのかが見えないと一歩目は重くなりやすい。
寮があるかという話だけでは足りない。
生活費の感覚。
周辺の環境。
移動のしやすさ。
その土地での日常が少しでも思い浮かぶかどうか。
そこが見えてようやく仕事の話が自分ごとに近づいてくる。
未経験の人に必要なのは仕事の魅力より先に安心だと思う。
入ってから教えてもらえるのか。
見学できるのか。
働いている人の空気はどうか。
最初の一歩が重くなりすぎないか。
そこが見えないままでは、魅力を並べても届きにくい。
一方ですでに現場を知っている人に響くのは安心感だけではない。
今よりどんな役割を任されるのか。
改善に関われるのか。
自分の経験をどこで活かせるのか。
この層には仕事のその先にある広がりまで見えたほうが強い。
こうして見ると違うのは条件そのものではなく、
最初に引っかかる言葉の位置なのだと思う。
同じ職場の募集でも入口をひとつにまとめると、
その最初の引っかかりがぼやけやすい。
入口を分けると求人の輪郭がようやく見えてくる
ここまで見てくると
入口を分ける意味は募集を細かく増やすことではないとわかってくる。
同じ職場の求人でも最初に届くべき言葉が違う。
その違いを見ないままひとつの原稿で全部を受け止めようとすると、
情報は入っていても印象が薄くなる。
正社員向けの入口なら生活の土台や先の広がりが前にあったほうがいい。
パート向けなら時間や通いやすさが先に見えたほうが安心につながる。
県外応募者には仕事内容より前に、
その土地での暮らしの輪郭が必要になる。
未経験者には制度の説明より最初の一歩を
軽くする言葉のほうが効きやすい。
経験者にはやさしさだけでなく役割や裁量の話が見えたほうが届きやすい。
同じ施設でも入口が変われば、
見出しの書き方も本文の順番も使う写真も少しずつ変わってくる。
そこでようやくその求人は誰に向けたものなのかが見えやすくなる。
入口を分けるというのは表現を工夫することというより、
読み手が最初に受け取る景色を整えることなのだと思う。
見つけてもらい方まで少しずつ変わってくる
入口を分けることは読んだ時の印象だけに関わる話ではない。
検索のされ方にも少しずつ影響してくる。
ひとつの求人に全部を詰め込むとどうしても言葉は一般化される。
そして誰にでも向けられた言葉は広く見える一方で、
誰かに向いているのが見えにくい。
けれど入口が分かれてくると検索される言葉との距離も近くなる。
たとえば寮のある正社員求人を探している人。
午前中だけ働けるパートを探している人。
地方で暮らしながら働ける宿を探している人。
未経験で入れる宿泊業の仕事を探している人。
そういう探し方をする人にとって入口が整理されていることは、
そのまま見つけやすさにもつながっていく。
会社名で探してくる人はすでにその宿を知っている。
でも母集団形成ではその前の段階の人に見つけてもらわなければいけない。
だから入口を分けることは、
読み手のためでもあり見つかり方を整えることでもある。
最初から細かく分けすぎなくてもいい
とはいえいきなり何十種類にも分ける必要はないと思う。
最初は大きく見て5つくらいあれば十分だ。
① 正社員向け
② パート向け
③ 県外応募者向け
④ 未経験者向け
⑤ 経験者向け
これだけでもかなり整理しやすくなる。
もちろん施設によっては新卒向けを加えてもいいし、
朝食スタッフや清掃スタッフのように職種ごとに切る方法もある。
ただ最初の整理として大事なのは完璧に分類することではなく、
誰に向けた入口なのかを曖昧にしないことだと思う。
細かく作ることより入口の向きがずれていないこと。
そのほうが実際にはずっと効いてくる。
全部を書くより最初に置く言葉を決める
採用ページや求人原稿を作る時
宿の魅力も働き方も寮も教育も待遇も地域のことも、
できれば全部書いておきたくなる。
その気持ちはよく分かる。
でも読む側は全部を同じ重要度では受け取ってはいない。
ある人には成長より先に安心が必要になる。
ある人には仕事内容より前に暮らしの情報がいる。
ある人にはやわらかさよりも役割の広がりが大事になる。
違うのは情報量ではない。
最初に置くべき言葉だ。
全部を語るより最初の一言で、
自分に関係がありそうだと感じてもらえること。
そのほうが結果として応募に近づく。
まず分けたいのは求人ではなく読み手である
ここで先にやるべきなのは求人原稿の本数を増やすことではない。
まず見たいのは読み手の輪郭のほうだ。
この求人は誰に向いているのか。
どんな不安を軽くしたいのか。
どんな人に自分のことかもしれないと思ってもらいたいのか。
そこが見えないまま原稿を増やすと似たような募集が並びやすい。
逆に読み手が見えてくると言葉の順番が変わる。
見出しが変わる。
写真が変わる。
本文の入り方も変わってくる。
入口を分けるとは情報を増やすことではない。
相手の見ているものを分けることなのだと思う。
宿泊業の採用は入口のつくり方が大事になる
母集団形成というとどうしても数の話になりやすい。
どれだけ多くの人に見てもらうか。
どれだけ応募数を増やすか。
もちろんそれも大事だ。
ただ宿泊業の採用ではそれだけでは足りない。
正社員として考えている人に向いた入口。
パートとして働きたい人に向いた入口。
県外から移る人が不安を軽くできる入口。
未経験の人が一歩目を踏み出しやすい入口。
そうした入口を分けて持つことで採用は少しずつ動きやすくなる。
ひとつの求人で全員を採ろうとしない。
それは募集を狭めることではなく、
相手が入りやすい入口を整えることなのだと思う。
第3回では旅館スタッフ募集では埋もれる時代に、
何を見出しにするかという話をもう少し具体的に考えていきたい。