
仕事というのは不思議なもので、
忙しくなるほど、
ちゃんとやっているつもりのことが、
いつの間にか作業に近づいていく。
時間に遅れないように動く。
漏れがないように進める。
決められた順番を守る。
それ自体はもちろん大切だ。
けれどそうやって日々を回しているうちに、
何のためにその動きをしているのかが、
少しずつ薄くなる時がある。
今回こういったことを再度見直す
きっかけとなるセミナーを聞いていて、
最初に強く引っかかったのも、
まさにその部分だった。
サービスとは決められた動作を
こなすことではなく、
目の前のお客様に真正面から
向き合うことではないか。
そんな話だった。
言葉にするとまっすぐすぎるくらいまっすぐだ。
けれど旅館やホテルの現場に置き直してみると、
案外いちばん難しいことでもある気がした。
忙しい現場ほど仕事は作業になりやすい
旅館やホテルの仕事には、
日々たくさんの業務がある。
料理を出す。
部屋へ案内する。
チェックインを受ける。
清掃をする。
見送りをする。
どれも必要な仕事だ。
ただそれが必要だからやる、
になった時にサービスは少しずつ
作業に近づいていくのかもしれない。
忙しい日もある。
人が足りない日もある。
想定外のことが重なる日もある。
そういう中で目の前のお客様を
ちゃんと見ることは、
頭ではわかっていてもつい後回しになりやすい。
だからこそ今回の話はきれいごととして
流すのではなく旅館の現場に引き寄せて
考えたいと思った。
サービスは目の前のお客様を見ることから始まる
サービスというのは、
何か特別なことをする前に、
まず相手が何を感じているかを
想像するところから始まる。
困っていないか。
不安はないか。
説明は足りているか。
少し安心してもらうには何を足せばいいのか。
その問いを持てるかどうかで、
同じ動作でも意味が変わる。
旅館の接客改善やホテルのサービス向上というと、何か新しいことを増やす話になりがちだ。
けれど本当に必要なのは、
派手な何かを足すことではなく、
いまある接客の中身を
見直すことなのかもしれない。
お客様を友人や知人のように考えてみる
セミナーの中で特に印象に残ったのが、
お客様をただのお客様として見るのではなく、
自分の友人や知人が来ていると思って接する、
という話だった。
たしかに友人が来てくれたなら、
荷物が重くないか気になるはずだ。
食事の席では苦手なものがないか、
ちゃんと楽しめているかが気になるはずだ。
帰る時には無事に帰れるように、
気持ちよく送り出したいと思うはずだ。
旅館の接客やホテルのサービスも、
本来はその延長にあるのだと思う。
もちろんお客様は友人ではない。
仕事としての距離感も必要だ。
けれど目の前の人を大事な存在として
見る感覚があるかどうかで、
接客の質はかなり変わる。
感動は派手な演出より小さな気づきから生まれる
感動という言葉についても、
あらためて考えさせられた。
感動というとつい派手な演出や
特別な仕掛けを思い浮かべやすい。
けれど実際には、
そういうものだけで生まれるわけではないと思う。
むしろ感動体験は
小さな気づきの積み重ねから生まれることが多い。
表情を見て声をかける。
少し困っていそうな様子に気づく。
説明が足りていなければもう一言添える。
食事の時間、
館内での過ごし方、
帰り際の言葉まで少しずつに気を配る。
そうした小さな行動が、
お客様にとっては、
この宿は自分のことを見てくれている、
という安心感につながる。
その安心感が結果として満足につながり、
ときには感動にも変わっていく。
真似ではなく自分たちの宿でできることを考える
ここで大切なのは有名旅館や高級ホテルの
真似をそのまますることではないと思う。
もちろん学ぶべきことは多い。
ただそれを自分たちの宿の規模や人員や
地域性や客層に合わないまま持ち込むと、
どこかで無理が出る。
自分たちの宿でできることは何か。
自分たちのお客様が本当に喜ぶことは何か。
自分たちの現場で無理なく続けられることは何か。
そこを考えることのほうがずっと大事だと思う。
サービスは見た目の立派さではなく、
続けられるかどうかでも決まる。
だからこそ背伸びした理想より、
自分たちの宿らしい接客を積み重ねるほうが強い。
ルールの意味を考えると
仕事は作業から変わる
旅館の仕事は料理、部屋、温泉だけでできている
わけではない。
会話がある。
案内がある。
清掃がある。
見送りがある。
その全部がお客様の旅の記憶につながっていく。
だからこそスタッフ一人ひとりの考え方が
大事になる。
決められたルールを守ることは必要だ。
でもそれだけでは十分ではない。
なぜそのルールがあるのか。
なぜこの一言が必要なのか。
なぜこの順番で案内するのか。
そこまで考えることで、
仕事は作業からサービスへ変わっていく。
最後に残るのは、
迎え方と過ごし方と送り出し方である
設備や商品力はもちろん大切だ。
料理も、部屋も、温泉も大事だと思う。
けれどそれだけでは記憶に残りにくい場合もある。
最後に残るのはどのように迎えられたか。
どのように過ごせたか。
どのように送り出されたか。
そういう体験のほうなのだと思う。
忙しい現場ではどうしても接客が
流れてしまうことがある。
その現実はある。
だから理想だけを言っても仕方がない。
それでもだからこそ思う。
目の前のお客様をよく見ること。
自分ごととして考えること。
大げさなことをしようとせず、
できることを丁寧に行うこと。
そうした積み重ねが、
結局はいちばん強いのではないかと。
今回のセミナーを通じて、
あらためて感じたのは、
旅館の価値は設備や商品力だけで
決まるものではないということだった。
現場で働く一人ひとりの気づきがある。
その気づきが接客になり、
サービスになり最後にはお客様の記憶になる。
旅館の仕事は目の前の人を思うことから始まる。
たぶんそこがいちばん
外せないところなのだと思う。
言うは易しで実行が大切であると
優先順位を付けながら一歩一歩。