
仕事をしていると、
とりあえずこれをやっておけば安心、
みたいなものがいくつかある。
会議なら資料を作ることかもしれない。
企画なら枠を埋めることかもしれない。
数字なら表を整えることかもしれない。
もちろんどれも必要だと思う。
ただそれをやったことで
考えたことになってしまう時がある。
ペルソナという言葉にも、
少し似たところがある気がしている。
誰に向けて売るのかを考える。
それ自体はとても大事だ。
けれど名前をつけて、
年齢を書いて、
職業を書いて趣味や休日の過ごし方まで
埋めるとそれだけで
何か仕事をした気になりやすい。
たぶん本当に怖いのは、
ペルソナが古いことではない。
ペルソナを設定したことで
考えるべきことを考えたつもりに
なってしまうことなのだと思う。
ペルソナという言葉への違和感
宿泊業の集客や販売改善の話をしていると、
ペルソナという言葉はよく出てくる。
誰に売るのか。
どんなお客様に来てほしいのか。
どの層を狙うのか。
その問い自体はとても大切だと思う。
旅館でもホテルでも誰に向けて
価値を整えるのかが曖昧なままでは、
写真も文章もプラン設計もぼやけやすい。
ただその一方で、
ペルソナという言葉が便利すぎるせいか、
現場では少し雑に使われているようにも感じる。
30代女性。
都内在住。
年収600万円。
旅行好き。
Instagramで情報収集。
少し良い宿に年数回泊まる。
こうした人物像はたしかにきれいに見える。
そしてそれらしく見える。
けれどその情報を並べたところで、
本当に宿の予約改善につながるのかと考えると、
少し立ち止まりたくなる。
なぜなら宿の予約は、
属性だけでは動かないからだ。
ペルソナが形骸化する理由
ペルソナが形骸化する理由はシンプルだと思う。
作ること自体が目的になってしまうからだ。
本来ペルソナは、
写真、プラン、文章、価格、販売チャネル、
予約導線を整えるための道具だったはずだ。
誰に向けてどの価値を、
どう見せるのかを考えるための
補助線だったはずだ。
けれど実務では、
ペルソナシートを作って終わることがある。
名前をつける。年齢を決める。仕事を書く。
趣味を書く。休日の過ごし方を書く。
よく見るSNSを書く。
そこまで整うと、
何か大事な作業を終えたような気持ちになる。
でもその人がなぜその宿を予約するのかまでは、
意外と掘られていない。
大きくいうとここにズレがある。
どんな人かは書いてある。
けれどなぜその人が旅に出るのか、
なぜこの宿を選ぶのか、
どこで迷い、
どこで納得するのかが見えていない。
それでは宿の販売改善にはつながりにくい。
宿泊予約で本当に見るべきもの
宿泊業で本当に見なければいけないのは、
人の属性よりも旅に出る動機だと思う。
たとえば同じ30代女性でも、
その人がどんな理由で旅を考えているかによって、選ぶ宿はまったく変わる。
母親と久しぶりに温泉へ行きたい人がいる。
小さな子どもと安心して泊まりたい人がいる。
夫婦で少し距離を取り戻したい人がいる。
仕事に疲れて何もしない時間がほしい人がいる。
友人と記念日を過ごしたい人がいる。
同じ年代。
同じ性別。
同じような収入帯。
それでも反応する写真も違う。
安心する言葉も違う。
比較する宿も違う。
最後に決め手になる条件も違う。
つまり年齢や性別だけでは、
宿を予約する理由までは見えてこない。
宿泊予約で見るべきなのは、
どんな人かという整理より、
その人がどんな状況で、
その宿を必要とするのかという
流れのほうだと思う。
予約は感情と判断の流れの中で決まっている
実際にお客様が予約する時には、
もっと曖昧で、
もっと感情的で、
もっと現実的な判断が重なっている。
なぜ今旅行に行きたいのか。
誰と行くのか。
何を避けたいのか。
何と比べているのか。
どの写真で惹かれたのか。
どの言葉で安心したのか。
どの価格で迷いどの条件で納得したのか。
宿泊予約はこうした流れの中で決まっている。
お客様自身も、
最後にはうまく説明できないことがある。
温泉が良さそうだったから。
料理が気になったから。
なんとなく雰囲気が合っていたから。
そのくらいの言葉で
決まっているように見えることもある。
けれどそのなんとなくの裏側には、
かなり多くの感情と判断が重なっている。
だから宿が本当に見なければいけないのは、
架空の人物プロフィールではなく、
予約に至るまでの感情と判断の流れなのだと思う。
ペルソナよりも予約の文脈を見る
宿泊業に必要なのは、
固定された人物像ではなく予約の文脈だと思う。
どんなきっかけで探し始めたのか。
どのOTAや自社予約サイトで比較したのか。
何に不安を感じたのか。
どのプランで迷ったのか。
どの写真で滞在を想像したのか。
最後に何が決め手になったのか。
ここまで見えてくると、
はじめて販売改善に使える。
写真を変えるべきなのか。
プラン名を見直すべきなのか。
説明文を足すべきなのか。
価格差をどう見せるべきなのか。
公式サイトに何を置くべきなのか。
OTAでは何を先に伝えるべきなのか。
こうした判断は属性だけではできない。
予約の文脈まで見て
ようやく触るべき場所が見えてくる。
ペルソナはそこまで落として初めて意味を持つ。
ペルソナは古いのではなく浅い使い方が古い
結論を言えば、
ペルソナという手法そのものが古いとは思わない。
誰に向けて宿の価値を整えるのかを考える。
そのためにお客様像を仮に置く。
それ自体には今でも十分意味がある。
ただしプロフィールづくりで終わる
ペルソナは、もう弱い。
属性をきれいに並べるだけでは、
旅館やホテルの予約は動かない。
宿泊業では年齢や性別よりも、
旅の動機、同行者、避けたい不安、比較対象、
決め手を見る必要がある。
誰が来るのか。
ではなくなぜ来るのか。
どんな人か。
ではなくどんな状況でその宿を必要とするのか。
そこまで掘ることで、
ペルソナは単なる資料ではなく、
集客や販売改善のための手がかりになる。
宿が本当に見るべきお客様像は、
きれいに整った人物設定ではない。
旅を選ぶ時に揺れている、
感情と判断の流れのほうなのだと思う。
